PF2e Remasterにもポリコレの波は容赦なく襲いかかっている。
秩序/混沌、善/悪の対立軸はもはや世界から失われた。
悪魔全てが悪しき意志を持っているとは限らないし、天使はときには人の命を顧みず、一片の慈悲も示さぬような行動をとる。ドラウにはときおり善の心を宿す子が生まれる。
今までとあんま変わってねえじゃねえかとかガタガタ言わない。
そんな中、PCたちは「英雄」と位置づけられており、2e Starter Boxの付属シナリオでも「Adventures」とか「Investigators」ではなく「heros」と表記されている。
それを反映するかのように、2eではセッション開始時にヒーローポイントを少なくとも1点持って冒険を始めるようルールに明記されている。
ちなみに2eではヒーローポイントは振り直しのほか、HPが0になったときの安定化にも使える。英雄の死ににくさを表現してるってことかね。
なお2eからはヒーローポイントは3ポイントまで貯めておけるし、英雄的なことをするたびにもらえる(GM向け指針として「1時間に1ポイントくらい出しとけ」とある)。
また、「ヒーローポイント使うときには英雄らしい振る舞いや結果をもたらしたことを他のプレイヤーやGMに説明すること。難しければ他のPLと相談してもいい」なんてことまで書かれているので、「英雄的に振る舞う」ことを推奨するシステムになっていると言える。
なので、なんか戦闘で微妙な目が出たとか、ヤバそうな色に変色した古い肉食ったとか、D&Dではランダム表から抹消された「名前を呼んではいけないあの施設」で特定の感染症に罹りそうになったときなんかにキメッキメのカッコイイセリフや決めポーズとともに英雄的に振り直そう!
それこそがいともたやすく行われる英雄的な行いであり、Paizoが求める英雄像なのだから!
というネタはさておき、実際この「英雄的」であるとか、行いの善悪であるとか、「人を傷つけない表現」の線引きを明文化しようとするのは相当難しい。
明文化したら「じゃあこれはいいの?」みたいなのがぞろぞろ出てきて大喜利会場にされるなんてのは悪いインターネッツでは良くある話だしね。
個人的には「誰も傷つけない」ことはただ生きてるだけでも無理じゃね?
ていうか、ある程度は「お互い様」として片づける以外にやりようねえだろ地上に70億人おるんやぞとかイヤな結論に達してしまったりするのだが、このへん正直に話すといろいろ怒られが発生する国も多くなってきた関係上、Paizoもけっこう悩んでいるようで、プレイヤーコアのp397およびGMコアのp7に「The Pathfinder Baseline」としてガイドラインが示されている。
なお書いてあることはPL/GMでだいたい同じだけど、GMコアのほうが社会的な立場みたいな話に踏み込んでるかな。
とりまざっくり訳してみた。
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ゲームにおいては、好ましくないトピックや社会的慣習から不快とみなされる内容が語られなかったり省かれたりしていることがある。こうしたアプローチは、万人に共通すると考えられるものという仮説に基づいたもので、必ずしも正しいものとは言いがたい。以下に示すのは、大多数のプレイグループで機能すると考えられる、いわば仮説であり、プレイグループの好みに合わせて調整してもよい。
・流血、負傷、身体の切断については、描写自体はあり得るものだが、流血や残虐行為についての過剰な記述は避けるべきである。
・ゲーム内では恋愛関係や性的関係が発生する可能性があるが、プレイヤーが過度に示唆的になることは避けるべきである。性行為は「スクリーンの外」で行われる。あるPCが別のキャラクターと関係を築こうとすることは、一般的には避けるべきである。
・過度に下品・尾籠な記述(gross or scatological)は避ける。
プレイヤーキャラクターは以下の行為を行うべきではない:
・拷問
・レイプ、合意に基づかない性的接触、性的脅迫
・性的虐待を含む子どもへの危害
・奴隷を所有したり、奴隷から利益を得たりすること
・精神操作系の魔法の悪用
シナリオに登場する悪役はそのような行為に関与するかもしれないが、それらは「スクリーンの上」では起こらず、詳細に説明されない。多くのプレイグループは、悪役がこれらの活動に全く関与しないかたちを選択しており、これらの非難すべき行為を完全に思慮外に置いている。+++++++++++++++
……うんまあ、「だいたいの人がこれまでもそいう感じでやってたんじゃないですかね」という感じの内容じゃねえかなコレ。
とはいえ「過剰に残酷な行為や違法な行為はPCはやらない」という指針は「should never be performed by player characters」と割と強く表現されている。
まあPCは英雄だからな!
ヒーローと呼ばれるに値しない行為を避けねば、ヒーローポイントの獲得もおぼつかない。
「拷問」が禁止されると困ることになりそうなPCの顔が複数名脳裏に浮かんだり、「おっ無辜の人間への危害や殺人は禁止されてないなやったぜ」とか言いそうなPCの顔が複数名脳裏に浮かんだりもしたがドンマイ。
ただ、こうした悪事は某第5版みたいに「なかったこと」にはされておらず、「悪役がやるとしてもスクリーン外でやるべし」ということが示されているのは順当な落とし所なのではなかろうか。
身もフタもないが、人類史において娼婦の存在しない文明はこれまでなかったろうし、奴隷やそれに類するものがいなくなった文明ってのも人権の発明まではほぼなかったはずである。
そうしたものにフタおっかぶせて見えなくしても、なかったことにはならないだろう。
PFでいえばシェリアックスみたいに植民地経営(穏当な表現)で勢力拡大してる国もあるし、そもそも命を奪った上でアンデッド兵士に変えてるグレイヴランドは奴隷とかメじゃないひどさだけどそっちはええんかとかいう話もあるわけで。
こういう「現代の通念では酷いとされていること」、つまりコレまでの版で「悪evil」と分類されてきた思想が当たり前に存在する世界で、現代人の視点で真っ当(=善good)に生きようとするからこそその善性がより輝くんじゃねえかと思うんだけどねー。
ちなみに、
GMコアにはこのガイドラインのほかに「事前にどんな話がイヤかを決めとくといいよ」とか「やめようって決めたことの抜け道を探そうとしたりキワを攻めようとするヤツがいたらゲームを止めよう」とか「ゲーム中イヤなことがあったらそれを示せるXカード」であるとか、まあようするに
困ったちゃんプレイヤー対策が示されているので興味のある人はこちらもどうぞ。
p18の「Problematic Players」に列記されている困ったちゃんプレイヤーの類型をみるに「人間というのは洋の東西を問わないものだなあ」と言う感慨にふけることができること請け合いである。